製造部:物産第五
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製造部:紀伊続風土記(現代語訳)
製造部
- ○鍛冶
遠い昔、本国に鍛冶があったことは提綱及び牟婁郡入鹿荘に詳らかである。近世、刀鍛冶に文殊九郎三郎という名工があった。子孫が代々その職をなす。 - ○鎧
提綱に詳らかである。 - ○弓
提綱及び那賀郡山埼荘山村の小名夙の条に詳らかである。 - ○鉄銃(テッポウ)
那賀郡小倉荘吐前城主津田小監物算長という者が享禄年中大隈国種子島に渡り、鉄砲を伝来し、天文年中に帰国した。これは皇国に鉄炮を伝えた初めという。今、鉄炮押鍛冶早川七右衛門の家が南龍公のときから今に至って数代その職をなして、その製は他に優るという。 - ○鏃(ヤジリ)
提綱及び牟婁郡入鹿荘に詳らかである。 - ○鋳物
那賀郡粉河村の鋳物師は弘仁の頃からこの地に住すという。遠い昔は家数が40〜50軒あったが、いまはたった9軒となった。京・大阪及び近国へ送り出す。 - ○天狗燧(テングヒウチ)
牟婁郡入鹿荘に詳らかである。 - ○煙管(キセル)
那賀郡粉河村の製を名品とする - ○綾錦(アヤニシキ)
『続日本紀』に和銅5年秋7月、伊勢・尾張・紀伊など21国に綾錦を初めて織らせるとある。今は絶えた。 - ○縑(カトリ)
『新猿楽記』に諸国の土産を挙げて紀伊国縑とある。今は絶えてしまった。 - ○糸
『続日本紀』に大宝3年5月己亥、令紀伊国那賀・名草2郡停布調献糸とあり、『延喜主計式』に凡貢夏調糸者(中略)紀伊等12国幷上糸とある。今なお少し出している。 - ○木綿布
各郡がみな草綿を栽えるなかでも伊都・那賀・海部・名草の4郡の産上品で、この辺の婦女の業で糸を作り、木綿布及び紋羽(もんぱ)を織って諸国へ出す。ことに伊都・那賀の両郡は最も多く出す。縞毛織をも出す。また在田郡に栖原毛織というのがある。至って上品である。また日高織がある。 - ○日高聾織
寛政年中に日高郡薗荘御坊村に平四郎という者が初めて織り出す。これはまた木綿糸で織る。その質は舶来の粤縞に似ているところがある。また種々の綾様の紋をなすものがある。平四郎は耳が聾であった土地の人は聾織という。 - ○大谷織
在田郡田殿荘大谷村から織り出す聾織の類である。しかしながら今は織り出す者がいたって稀である。 - ○紋羽織(モンパオリ 紋羽または紋派とも書く)
この品は古くは孫六織といって(孫六の伝は詳らかでない)、寛保の頃から府下で売るものがある。明和4亥年から紋羽と名を改め諸州へ出して名品となる。今は那賀郡野上荘で多く織り出している。古い製品は表に毛がない。明和年中から毛を掻き出し、これを足袋に製して諸国へ売る。衣服の裾を損せず、強さは常品に10倍するという。 - ○印花布染(サラサゾメ)
文化年中から府下で染め出すものは下品である。近年染め出すものは上品であるけれども、舶来の品に劣っている。 - ○陶器
享和元酉年から府下の鈴丸十次郎家で焼くものを名草焼といい、また文政年中から在田郡広荘男山で焼くものを男山焼という。また近年、海部郡雑賀荘愛宕山の麓で焼き出す。その製は男山焼と同じ。 - ○瓦
元和年中から府下で造る。いま東瓦町、西瓦町に瓦師が多い。 - ○筆
府下の昌平河岸で製する(筆師はみな福山氏とする。『塩尻』に弘法大師帰朝のとき筆師の福氏を従えたゆえ、いま福某という者が多いといっている。福山もその1つであろう)。また近年、和歌浦蘆軸筆、玉津島松緑軸筆、四方嵐翏軸筆など、その他異製が多い。また藁筆がある。在田郡保田荘新堂村から出す。好事の者が大寺を書くのに用いる。 - ○高野紙
伊都郡古佐布荘及び相賀荘河根村より製し出す。生漉で、虫蝕することなく水に入っても破れない。墨付きは悪いけれども、力強い。ゆえに傘紙に用いる。60枚を1帖とする。 - ○神野紙
那賀郡神野荘で製する。だいたい高野紙に似て色白く滑らかである。少し糊気がある。多く帳紙に用い、下品のものは黒江椀の袋に用いる。 - ○保田紙
在田郡山保田荘で寛文年中から初めて製する。詳らかに同荘寺原村の条に載せる。 - ○二川紙
近年、在田郡山保田荘二川村より漉き出す。1枚で3畳敷、4畳敷の大きさであるものもある。その質は厚くて高野紙に似ている。 - ○山地半紙
日高郡山地荘及び寒川荘下甲斐野村で製する。その質は土佐半紙に類する。 - ○熊野半紙
奥熊野四村荘の高山村・小津荷村より製し出す。また大半紙も漉き出す。 - ○花井紙(ケイカミ)
○花井紙子(ケイカミコ)
上の2種は奥熊野花井荘の花井村の条で詳らかである。 - ○藤白墨
名草郡大野荘藤白浦の条で詳らかである。 - ○松烟
在田郡山保田荘、牟婁郡田辺荘などから出す。 - ○炭
伊都・在田・日高・牟婁の4郡の山中の諸村から出す。中でも田辺炭(田辺荘製)、熊野炭(尾鷲郷製)が名高い。
- ○傘
府下の本町九丁目みな傘戸である。松葉傘といって名物とし、諸州へ出す。 - ○非乃木笠(ヒノキカサ) 非乃木籃(ヒノキカゴ)
上の2種は日高郡山地荘龍神村、牟婁郡本宮辺で製作する。先年は扁柏(※へんぱく、ヒノキ※)皮を用いる。今はこの辺に多く産するアラハナ一名カエデノ木という木皮で製し、扁柏皮を用いない。 - ○団扇(ウチワ)
那賀郡粉河村の菱屋某家にて作り出すので、菱屋団扇という。数品ある。 - ○根来椀
中古、根来寺の諸院及び近郷にて製する。天正兵火の後、その職をなす者が離散していまその制作をなす者がいない。その器は民間に伝わるものを好事の徒が争って重器とする。 - ○黒江椀 同折敷類
名草郡五箇荘黒江村で200年以前より渋地椀及び木具折敷類を製し出し、諸国へひさぐ。今は国として行き届かない所はなく、その製は最も佳好である。 - ○梭(ヒ ※シャトル※)
日高郡南部荘、牟婁郡田辺荘から出す。 - ○トチ細工
牟婁郡田辺城下でトチノキの板から種々の器物を制作して四方へ売り出す。木目が美しくて愛すべし。 - ○藁筵(ワラムシロ)
名草郡安原荘で作り、近郷へひさぐ。国中で蜜柑籃の覆いには必ずこの筵を用いるという。 - ○苫(トマ)
牟婁郡三前郷須江浦の漁人が漁間に茅を刈って作り出すのを業とする。 - ○生蝋(キロウ)
日高郡の所々から出す。 - ○蝋燭
在田郡湯浅荘で製するものを上品とする。 - ○魚油
牟婁郡の浦々から出す。 - ○製薬
上厨子目薬(若山湊) 打老児丸(若山内町) 玉屋牛肉丸(若山湊) 大橋無二膏(若山広瀬) 山田振田(若山本町) 和歌浦保命散(海部郡) 大日丸(名草郡境原村) 待乳膏薬(伊都郡上夙村) 癰薬(那賀郡宮村)など世間にその名が高い。 - ○塩
『延喜式』に紀伊国塩が所々に散見する(詳らかに提綱に載せる)。いにしえ牟婁郡相賀荘中で多く塩を焼いていたと見えて、正応6年正月の文書に津本のかま、引本のうちの竃と見える 。貞和4年の文書に木本の西竃と見え、天正20年の文書に引本矢口7つの塩竃と見える。また同郡曽根荘梶賀浦でも塩を焼いたということで村の南に塩竃という字が残っている。海部郡加太浦西荘村辺でも塩浜などの字が残っている。また名草郡神宮下郷中島村に慶長以前までは塩浜が多かったという。
今は同郡五箇荘三葛村の塩は国中で第一の佳品とする。村の西、雑賀川の東岸周13町の塩田がある。その開発の始まりは詳らかでない。田所氏が蔵する文明7年三葛塩年貢沙汰状がある。その製塩は田中に細砂を置き,その上に海潮をそそぎ、その砂が数日を経て乾き、白色となる。快晴のときこの砂を削り集め、山様になして日に晒す。内外乾き切って砂を洶□(ユリイトキ)に盛り、下に桶を置き、また海水を汲んでその洶□に注げば海鹵が桶中に漏れ下る。これを煮て白塩となす。これは海塩で上品である。海部郡那賀荘和歌浦の製も同品で少し劣っている。
また名草郡神宮下郷船尾村の新田河内浜の塩は延宝元年から初めて製し出す。これは塩土から採る塩で,海辺の砂地に堤を築き、その内の地を平らにならし置くと、自然と塩がふくのだ。毎朝深霜が降ったかのようだ。これを砂とともに集めて竹簀の上に置き、海水で漉し煎じて塩とする(三葛村・船尾村の2条を併せ見るべし)。これは鹻塩で色に黒みがあって粗く,味が烈しく下品である。また牟婁郡田辺荘新庄村の塩も鹻塩である。また先年、和歌浦で五色塩を製したが、今は止む。 - ○酒
各郡みな醸す。中でも伊都郡諸村で醸すものを上品とする。府下で川上酒と称す。また 酒は府下の鷺森源次郎大夫の家で製するもので、その名は世に高い。国君から禁裏並びに公儀へ献じたまうことは元和の頃から始まったという。また麻地酒は府下の広瀬嘉左衛門の家で製する。これもまた公儀へ献じたまうことは元和年中から始まったという。 - ○酢
那賀郡粉河村で製するものは他所の製より気味が大いに勝って諸国へも多く出す。 - ○醤油
○玉井醤(世に金山寺味噌という)
上の2種は在田郡湯浅村で製するものが上品である。ともに諸州へ多く出す。 - ○砂糖
元文4年、府下の安田長兵衛という者が初めて甘藷苗を植えて同5年に初めて砂糖を製し、寛政2年からその製法を諸州に伝えた。皇国で砂糖を製する始まりという。今に至って安田氏の家及び海部・名草2郡の農家で黒白の2糖を製する。 - ○宮崎粉
在田郡宮崎荘の所々で製するので名づけた。小麦粉で、その製はいたって細密で他製に優る。国君から公儀へ毎年献じたまう。 - ○葛粉
牟婁郡田辺荘で製するものがいたって上品で、大和吉野製に劣らない。また在田郡山保田荘でも製する。田辺製には劣っている。 - ○奈良漬(すなわち粕漬である)
府下の酒造家で種々の瓜菓の類を漬けて諸国へ出すなかでスイカの若くて小さいものを漬けて小西瓜奈良漬といって賞玩する。 - ○褐腐(コンニャク)
那賀郡粉河村の製を上品とする。 - ○氷豆腐 氷餅(モ)
上の2種は高野山領の所々で製する。 - ○餅餌類
鶴屋饅頭(府下の駿河屋某の家で製する) 蕎麦麺(府下の所々で製する) 糸切餅(海部郡本脇村) 弁慶餅(牟婁郡田辺城下) 暗饅頭(クラガリマンジュウ 伊都郡下兵庫村) 岩手新粉(那賀郡) カシノ粉餅(牟婁郡熊野) 塩焼餅(名草郡三葛村)などの類がその名が高い。 - ○魚酢
本国で魚酢の製は数種ある。なかでも府下の雀酢(古 魚児の酢をいう)。那賀郡粉河村の香魚酢は近国へ出して,その名が高い。また在田・日高両郡で塩魚で馴酢というのを製する。 - ○魚肉糕(カマボコ)
牟婁郡田辺荘の製が上品で夏中でも損せず、諸国へ出す。
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